Photo: By Alex Barth
プエルトリコがデフォルト(債務不履行)状態。つまり、国の借金が膨らみすぎてどうにもならなくなったということです。
プエルトリコは金持ちの住む場所と思われているのが一般的です。私もその一人で、あの島の人たちは借金とは無縁の生活を送っている印象を持っています。しかし、外部からそんなイメージを持たれるような地域が、なぜ借金だらけになってしまったのでしょうか。
今回は、プエルトリコのデフォルトになった要因を、税制優遇などからめて調べました。
プエルトリコとはどんなところ?
Photo:Puerto Rico (Mix Photos) By Ricymar Photography (Thanks to all the fans!!!!)
プエルトリコは中米カリブ海域に位置する島の一つで、国家ではなく自治権をもった地域です。米国の領土のひとつではあるものの、「コモンウェルス」と呼ばれる地域でアメリカ合衆国を構成する州ではありません。
自治政府による内政の権限を与えられていますが、国際機関への加盟など一部の権限には制限を課せられています。アメリカであってアメリカではない地域なのです。
詳細:コモンウェルスとは何か: ポスト帝国時代のソフトパワー
私の感じていたプエルトリコ
Photo:San Juan – Independence of the Seas By roger4336
私は中南米に滞在した経験はあります。
プエルトリコへ訪れたことはありませんが、現地で生活していると、プエルトリコの優雅さというかゴージャスさみたいなものを常に感じることができました。
なぜかというと、
- プエルトリコ出身の著名人が多く、ラテン文化(特に音楽)発祥の地の一つ
- 豪華客船が頻繁に停泊・着港してる
- カリブ海域のリゾートがいっぱい(広告もたくさん見る)
- 半分アメリカでもあり、中南米ではダントツに都会
一言で言えば、プエルトリコは金持ちの「国」です。アメリカの自治区なのに「国」と呼んで島ほどリッチな人が多い印象した。「プエルトリコ=金持ち」というイメージをずっと持ってましたが、ある時期からプエルトリコは経済的にやばい国になっていたのです。
それにいち早く気づいていたのは、プエルトリコ債に投資していた投資家でした。
10年前までは景気が良かった
こちらの図を見てください。特に右側。
参照:プエルトリコ債の現状と米国地方債市場の行方
プエルトリコの経済成長率の推移をプラスマイナスで示した図なんですが、2004年はプラス2%と大きな経済成長となっています。
経済がプラス成長で動いた背景として、プエルトリコ自治政府とアメリカ政府が国際展開するような企業に対して税制などの優遇措置を設けていたことが挙げられます。
それが、なぜ急激にマイナスに転落しているのかを、説明したいと思います。
プエルトリコ経済の成長と衰退
プエルトリコの中心産業は製造業で、特に製薬産業が盛んです。プエルトリコ政府による優遇税制と連邦法人税の優遇措置により、多くの多国籍企業が参入ししています。
しかし、連邦政府が財政悪化のために、この優遇措置を1996年から10年間に渡って段階的に縮小・廃止。この優遇措置が縮小され始めた時期から、一部のアナリストたちから経済危機がささやかれるようになりました。
合法的なタックスヘイブン、過剰優遇
プエルトリコに拠点を置く企業に適応させた税制の優遇は、合法的なタックスヘイブン(租税回避地)です。
10年近い景気 低迷に万策尽きたプエルトリコ政府は1年半前、米自治領である同地域を米国民の租税回避地にさせる法を成立させた。年に183日以上をプエルトリコで暮らせば、税金は最低額かゼロで済む。
ポールソン氏に続け、ヘッジファンドはプエルトリコへ-米脱出 – Bloomberg
現在は、増税を実地した報道があったので詳細は不明ですが、一時期は、キャピタルゲイン税はゼロ、所得税や住民税も20年間支払い不要でした。
また、島内の生活インフラや公共交通機関が、デフォルト状態になるまで公営で運営されていたようなので、租税回避で移住するほどの資産家にとっては破格の値段で居住場所が確保出来る地域だったことが伺えます。
これは、個人にも企業にもプエルトリコ政府が過剰なまでに優遇していたと言わざるを得ません。そんな優遇措置の恩恵を受けてた人を見れば、私だけじゃなく、誰が見てもプエルトリコがとても裕福な地域として映ったのです。
島内にお金が落ちる仕組みがほとんどなかった
プエルトリコのデフォルトの理由を考察している興味深い記事がありました。
その中で、プエルトリコが危機に直面した原因について探求している一節が非常にわかりやすくまとめています。
- 税制優遇で大規模な企業誘致
- 工場建設等で、一時的に良くなる資金循環
- 税制を過剰優遇しているため企業からの税収が少ない
- 工場建設が終わると地域住民の職がなくなる
- 職を求め住民は島から移転
- 人口が減れば、残った住民の職も減少
- 投資したインフラの一人あたりの負担が増加
- 債務増大
参照:プエルトリコが危機に陥った訳|ゆとりずむ
本記事の説明に合わせ一部改変
税制優遇などの措置が裏目に出て、プエルトリコの島内へおカネが落ちる仕組みが出来上がらなかったのです。お金の巡りが悪ければ、当然のごとく島内の人口減少も招き、プエルトリコ政府の税収確保が全くできなかったためにデフォルトに陥ったのでしょう。
域内へ新規産業の呼び込みまでは良かったものの、その呼び込んだ産業を発展させ税収確保までの道筋が作れなかったことが痛手となっていますね。
このあたりの見解は、いろんな経済紙でも言葉を勝て指摘されてる部分ですので、概ね間違いなさそうです。問題は、この状況をどうやって打破していくのかです。
アメリカは手を差し伸べるのか?
プエルトリコはアメリカの一部なので、経済的危機に陥ってる仲間を助けるだろうと考えている方は少なくありません。
アメリカの自治区なのでアメリカが何とかするんだろうと思ってるんですがそう簡単にはいかないんですかね?そういえばプエルトリコに旅行で行った人もリッチ感を感じていたと言ってました。 https://t.co/EJRf9pjNn2
— Ray Yoshi (@RayYoshizawa) 2015, 8月 6
プエルトリコはアメリカの一部でありながらアメリカではない立場です。コモンウェルズという特殊な地域のため、アメリカの自治体に適用される破産法は、対象外です。
こちらの記事によれば、プエルトリコが過去に発行した債券(プエルトリコ債)があるのですが、所得税が免除になるため、富裕層などに購入されていたようです。ただ、この債券は、アメリカの州別の地方債残高でみると8番目に相当するため看過できない規模であるとのこと。
しかし、一般の国債のように幅広い投資家に、担保など様々な目的で保有されていることが想定されないため、金融システム全体に影響が及ぶリスクは高くないようですが、今後どうなるのか注視したいです。
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